
2025年発行(日本語版)の「アート・オブ・スペンディングマネー: 1度きりの人生で「お金」をどう使うべきか?」(モーガン ・ハウセル著/児島修 訳/ダイヤモンド社 刊)を読みました。
著者は、ベンチャーキャピタル「コラボレーティブ・ファンド社」でパートナーを務める、現役の金融プロフェッショナル。
世界的ベストセラーの前作「サイコロジー・オブ・マネー」では、「自由を獲得するためのお金の増やし方」に焦点が当たっていましたが、本作の焦点は「その自由を最大限に活かすお金の使い方」。
20年間、お金をテーマに文章を書いてきて驚かされるのは、自分がお金を通じて何を求めているのかをよくわかっておらず、お金をステータスや成功の尺度以外で使う方法を知らない人があまりにも多いことだ。(10ページ)
「金持ちだが幸せでない人」
「低所得だが多くの幸せを手に入れている人」
その違いは「お金の使い方」。
自分にとっては幸せなお金の使い方が、他の人にとっては馬鹿馬鹿しく思える場合もある。
あなたが物を欲する理由は、物自体が魅力的だからではなく、他の人が持っているから羨ましいだけなのかもしれない。
じゃあどんなお金の使い方をすれば、自分は満足な毎日を過ごせるのか。
人生の幸福度を上げるお金の使い方について学べる一冊となっています。
前作がとても良かったので、思わず購入した今作。グッときた部分のメモと感想をまとめました。
- 人間を幸福にする5つの基本的要素
- お金の問題の多くは、「自分にとっての幸せ」がわからないことから生じている。
- 仕事を楽しんでいる人は、浪費衝動がない。
- あなたが本当に求めているのは「良い物」でなく「称賛や注目」。
- 追い求めるべきは、「これ以上、他に欲しいものはない」と言う満足感。
- 見栄を張りたいという気持ちがなくなると、欲望は減る。
- お金に関する喜びは、倹約が不要になった時点で終わる。
- もともと幸福度が低い人は、お金が増えても幸福度はあまり上がらない。
- 著者のお金の使い方と、豊かさの定義。
- 「他人から求められている誰か」を演じるのは難しい。
- 生きていくために必要なものを手に入れると、社会的階層を上げようとする。
- 「嫉妬する」=「自立できていない」。
- 自分の行動をコントロールすることで、人は幸せになれる。
- 失うのが怖いものが多いほど、人は脆くなる。
- 検索しても出てこない、資産80億ドルを持つ一族。
- 人が本当に求めているのは、お金のことを考えずに生きていけるようになること。
- お金の使い方が上手な人は、誰にも似ていないお金の使い方をしている。
- 感想:自分の本当の満足のために必要な収入は意外と少ない。
- 「サイコロジー・オブ・マネー」のメモと感想はこちら。
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人間を幸福にする5つの基本的要素
心理学者カール・ユングは、「人間を幸福にする基本的な要素は何か?」という質問に次のように答えているそう。
1.心身ともに健康であること
2.結婚、家族、友人関係など、個人的で親密な人間関係が良好であること
3.芸術や自然の美しさを感じられること
4.妥当な生活水準で暮らし、満足のいく仕事をしていること
5.人生の浮き沈みにうまく対処できる哲学的・宗教的な視点があること
(11ページ)
ユングが「お金を幸せの要素として挙げていない」点に著者は注目しています。
人を本当に幸せにする「家族」「友人」「健康」「生きがい」「澄んだ心」などの要素はお金では買えず、自分自身で獲得するしかないということだ。(90ページ)
お金の問題の多くは、「自分にとっての幸せ」がわからないことから生じている。
どのような生き方であれ、自分に合ったシンプルライフの探求は、まず自分自身をよく理解することから始まる。(17ページ)
お金の問題の多くは、世間で「こうあるべきだ」と言われている方法でお金を使ったり貯めたりしているのに、それが自分の価値観に合わないことから生じている。(38ページ)
「自分は何をやっているときが幸せなのか」を普段から考えていない人は、「とにかくお金を追い求める」という方向に突っ走ってしまい、「お金があるのに不幸」というスパイラルに陥ることもあるそう。
仕事を楽しんでいる人は、浪費衝動がない。
私は、ボーナスを受け取った直後の投資銀行員ほど、あっという間にお金を使う人たちを見たことがない。
1年間、毎日午前3時までパソコンの画面を睨んで数字を分析するような働き方をしてきた彼らは、仕事によって犠牲にしたものを帳消しにし、猛烈に働いた甲斐があったと自らに証明したい衝動にかられている。(31ページ)
私には、満足を先延ばしにできる人は、仕事を楽しんでいる人が多いように思える。彼らは概して良い給料を得ているが、懸命に働いたことを浪費で埋め合わせようという衝動はない。(31ページ)
確かに、仕事や人間関係でストレスが溜まっているときの衝動買いと暴飲暴食具合は異常。
お金の使い方を見直すとき、同時に仕事や人間関係のストレスを減らすことも重要そうです。
あなたが本当に求めているのは「良い物」でなく「称賛や注目」。
あなたは、「良い物が欲しいと」思っているかもしれない。だが、本当に求めているのは尊敬や称賛、注目だ。(43ページ)
追い求めるべきは、「これ以上、他に欲しいものはない」と言う満足感。
真の幸福は、「幸せになるために、これ以上何が必要だろうか?」と問うのをやめたときに得られる。(64ページ)
既に手にしているものに満足し、楽しむこと。
「これ以上、他に欲しいものはない」という状態にならない限り、次々と欲しいものが出てくるが、
その時あなたが欲しているのは「具体的な何か」でなく、「まだ手に入れてない何か」であることがほとんどだ、と著者は言います。
そうしてまた手に入れたら、ゴールポストが動いて、別の何かが欲しくなる。その繰り返しになってしまうそう。
見栄を張りたいという気持ちがなくなると、欲望は減る。
「これ以上、他に欲しいものはない」という状態になるにはどうすればいいか。
見栄を張りたいと言う気持ちがなくなると、欲望は減る。欲望が減れば、すでに持っているものへの満足感が高まる。実にシンプルなことだ。(96ページ)
私たちがお金を使うときに下すすべての決定は、2つに大別できる。1つは、周りの人に良い印象を与えるため、もう1つは、自分の魂を見たし、幸せな気分を味わうためだ。(113ページ)
見栄でなく、自分自身の喜びのためにお金を使うことを意識すると、余計な欲望が減るとのこと。
お金に関する喜びは、倹約が不要になった時点で終わる。
聖職者ウィリアム・ドーソンの言葉。
富についてほとんど知られていないのは、お金に関するあらゆる喜びは、倹約が不要になった時点で終わるということだ。
ローンを組まずに欲しいものを何でも買えるようになった人は、購入したものにたいした価値を感じなくなる。(118ページ)
もともと幸福度が低い人は、お金が増えても幸福度はあまり上がらない。
「お金が増えると、すでに幸福度が高かった人はさらに幸福度が上がりやすい。
逆に、もともとの幸福度が低いと、必要最低限の生活レベルを超えた後は、お金が増えても幸福度はあまり上がらない」(146ページ)
これと同様に、「1人で幸せを感じられない人は、パートナーといても幸せを感じられない」とのこと。
著者のお金の使い方と、豊かさの定義。
・高収入になった著者が幸せな気分を感じるものは、低収入の時と同じだった。(家族との時間、アウトドア、友人との会話など)(57ページ)
・著者がお金を使いたい対象は、「なくても困らないが、人生を彩るもの」(たまの贅沢な食事、年一の長期家族旅行、時々買う上質な服など)。
→もしこれらを諦めねばならなくても、多少辛く感じるだろうが、家族も私も大丈夫、とのこと。(148ページ)
そんな著者も、以前は「豊かさ=高級品をたくさん持ってること」だったそう。
・今の豊かさの定義は、慌ただしさから解放され、家族と十分な時間を過ごし、スケジュールコントロールし、知的に自立していること。(204ページ)
「他人から求められている誰か」を演じるのは難しい。
「自分らしくいるのはとても簡単だが、他人から求められている誰かを演じるのはとても難しい」(161ページ)
生きていくために必要なものを手に入れると、社会的階層を上げようとする。
・人は生きていくために必要なものを手に入れると、社会的階層を上げようとする。他人と比較し、他人が持ってるものを欲しがるようになる。(186ページ)
「嫉妬する」=「自立できていない」。
「あなたは嫉妬している」という言葉は、なぜ強烈な侮辱になるのだろうか。それは、嫉妬が「あなたは他人を追いかけてばかりいて、自立できていない」と言う事実を突きつけるからだ。(194ページ)
自分をよく知り、自分が本当に望むものに近づくほど、たとえ自分が持っていないものを他人が持っていたとしても、それを羨ましく思うことは少なくなっていく。(194ページ)
嫉妬について、アメリカ合衆国建国の父ベンジャミン・フランクリンの言葉も刺さります。
「人生の秘訣の1つは、“人は、周りから嫉妬されていないときに尊敬されやすくなる“という事実に気づくことだ」(58ページ)
自分の行動をコントロールすることで、人は幸せになれる。
私たちは、「自分の行動コントロールできる人」を尊敬する。なぜなら、それは私たちが心から望んでいることだからだ。
私たちは、「自分の行動をコントロールすることで、人は幸せになれる」と知っているのだ。(209ページ)
失うのが怖いものが多いほど、人は脆くなる。
作家ナシーム・タレブ(不確実性の研究者で「ブラック・スワン」の著者)の言葉。
「重要なのは、何を持っているか、持っていないかではない。失うのが怖いものがどれだけあるかだ。それが多いほど、人は脆くなる」(210ページ)
やっぱり「鍵を開けっぱなしの田舎の家」って最強だと思う。
自分にとっての「自由・満足・幸福度」を保つために必要な額が少ないほど、仕事を変えやすかったり、引っ越しやすかったり、お金や物の管理がラクだったり。
たくさん持っているほど、資産管理、資産運用、セキュリティ、相続税、贈与税など対策すべきことが増えて面倒だよなあ、と。
検索しても出てこない、資産80億ドルを持つ一族。
著者は以前、資産80億ドルを持つ一族の資産管理のコンサルティングをしたことがあるそう。
その一族の名前は、グーグルで検索しても出てこない。フォーブス誌のリストにも、祝賀会の写真も、プロフィールも、ウィキペディアのページも、何もない。それは意図的なものだった。(中略)この一族の人たちは、完全な自由やプライバシー、自立を享受していた。誰と付き合うかを慎重に選び、匿名で寄付をしていた。(230ページ)
「決して表に出てこない謎の一族」というと陰謀論的ですが、やはりそういう人もいるよな、と納得した部分。
以下は投資家・作家のナヴァル・ラヴィカントの言葉。
「最高の地位とは、金持ちで、かつ無名であることだ」(231ページ)
確かに理想的です。
人が本当に求めているのは、お金のことを考えずに生きていけるようになること。
人がお金に本当に求めているのは、お金のことを考えずに生きていけるようになることではないだろうか。
他の大切な何かに集中できるだけの資産をつくり、あとはお金のことばかり考えるのをやめて生きる。(247ページ)
お金の使い方が上手な人は、誰にも似ていないお金の使い方をしている。
お金の使い方が上手な人たちは、誰にも似ていないお金の使い方をしている。(256ページ)
彼らは自立した思考でお金を自分のために使っており、お金に使われていない、と著者。
感想:自分の本当の満足のために必要な収入は意外と少ない。

前作「サイコロジー・オブ・マネー」がとても良かったので読んだ本作。
著者のお金の使い方や、生き方のシンプルさは今作でも健在で、相変わらず好きです。
ページ数300ページ超と分厚いのですが、読みやすく、不思議と温かい気持ちになれます。
お金の使い方について、陥りやすい失敗パターンが色々書かれているので、その逆を行こう、と戒める事ができる点も良き。
本書を読んで、自分のやりたいことや好きなことを見直してみると、「読書、書く、好きなだけ寝る、喫茶店、人の少ない場所、インドア」という、昔から変わらない内容ばかり。
そのことに気付かぬまま、過去にあれこれ購入しまくったアイテムは、今となってはほとんど手放して今に至るので、本当に物欲に振り回されていたな、と改めて痛感します。
著者の「興味ある仕事だけを選んで、それ以外は断るようになった」というあり方はまさに理想。
私の場合、「最低限どのくらいの年収があれば、経費も税金もプライベート支出も充分回せて幸せに過ごせるかを改めて計算してみる良い機会になりました。
「お金があったら欲しいもの、やりたいこと」は色々あると思うけれど、それって「誰にも知られない状態」でも本当にやりたいのか、自分を振り返ることができる一冊です。