みにまるなひげ

引っ越しの多いミニマリスト漫画家「ひげ羽扇」のブログ。


【読書メモと感想】独裁者の支配から自由になった者たちの末路。ディストピア小説の名著「動物農場」。

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ジョージ・オーウェル著の小説「動物農場」(早川書房)を読みました。

1945年発行の本作は、オーウェルが書いたディストピア小説の傑作「一九八四年」と並ぶ、もうひとつの代表作であり、権力構造に対する痛烈な批判を風刺した世界的な名作です。

「動物農場」が発行されたのは「一九八四年」の前年。「一九八四年」の骨格になっているのがよくわかる作品です。 

動物たちの話と見せかけて、やってることは人間と同じ。本編155ページというコンパクトさで、読みやすく分かりやすいですが、内容は大人向けの重いものです。

私の好み的に、タイトルだけ見ると、読まずにスルーしてしまいそうな本作ですが、読んで良かった!と思える、とても濃い、良い作品でした。

グッときた部分の読書メモと感想をまとめます。

「動物農場」あらすじ。

飲んだくれの農場主ジョーンズを追い出した動物たちは、すべての動物は平等という理想を実現した「動物農場」を設立した。

守るべき戒律を定め、動物主義の実践に励んだ。

農場は共和国となり、知力に優れたブタが大統領に選ばれたが、指導者であるブタは手に入れた特権を徐々に拡大していき……。(本書より) 

【読書メモ】グッときた部分。

歴史は繰り返す。

私も子供の頃はその歌を知っていたのだけれど、ずっと昔に忘れ去っていた。

でも昨晩、それを夢の中で思い出したのだ。

そしてさらに、その歌詞も思い出したーーそれははるか昔の動物たちが歌い、何世代にもわたって記憶から忘れ去られていた歌詞にまちがいない。(17ページ)

 
物語の冒頭、農場で尊敬されている、賢いオスブタの老メイジャーが演説で語った、「夢の中で思い出した歌」の話から。

人間を追放したあとの、イギリスの獣たちの輝ける喜びの歌なのですが。

「はるか昔の動物たちが歌い」ということは、過去に人間を追放したのに、今再び人間に支配されてるということなんだな、と察して、やるせない気持ちになります。

抗議のしかたがわからない。 

抗議をしたかった動物も何匹かいましたが、やり方がわかりません。

ボクサーでさえ、漠然と困惑しました。耳を倒し、前髪を何度かゆすって、考えをなんとかまとめようとしました。

でも結局、何も言うことがみつかりません。(64ページ)


リーダー2頭のうちの1頭、スノーボールが、もう一方のナポレオンからひどいやり方で追い出された直後の、動物たちの反応から。

苦闘したのはこんなことのためではない。

彼女は、反乱や不服従などまったく考えてはおりません。

こんな状態であっても、ジョーンズの時代よりははるかにマシだと彼女もわかっていたし、何よりも人類どもの復帰は阻止しなければと知っておりました。

何が起ころうとも、信念を失わず、一生懸命働き、与えられた命令を実行し、ナポレオンの指導を受け入れるでしょう。

それでも、彼女や他の動物たちが期待し、苦闘したのはこんなことのためではありませんでした。

風車を造り、ジョーンズの銃弾に直面したのはこんなことのためではありません。

これが彼女の思っていたことなのですが、それを表現する言葉を彼女は持ち合わせておりませんでした。(98ページ)

 

独裁者ナポレオンに逆らった動物たちがみんなの前で粛正されたあとの、メスウマのクローバーの思いから。

昔もこれからも、大して改善もしなければ悪くもならない。

長い生涯をこと細かに記憶していると主張するのは老ベンジャミンだけでした。

かれは、物事は昔もこれからも、大して改善もしなければ悪くもならないに決まっていると言いますーー空腹、労苦、幻滅こそは、生の不変の法則なのだよと言うのです。(142ページ)

 

ロバの老ベンジャミンは、決まったことには一応従うけど、積極的には関わらないし、将来に期待もしない、シニカルなタイプです。

身もふたもない。

唯一の農場。

いまだにここは、この地方でーーいやイギリス全体ですら!ーー動物が所有し運営する唯一の農場なのです。(143ページ)

 
ほかの農場の動物たちは人間への反乱をしなかったのか、できなかったのか。

やる前から諦めてたんでしょうか。

とにかくイギリス全土でこの農場だけというのが興味深いです。

4社に出版を断られた理由。

巻末の「報道の自由:『動物農場』序文案」から。

当時、4社に出版を断られたという本作。

ある出版社は本書を受けいれようとしたものの、情報省に相談したところ、高官から出版をやめるよう警告・忠告されたとのこと。それについての出版社の人間の手紙の抜粋です。 

もしこのおとぎ話が、独裁者全般や独裁制一般を対象にしているのであれば、刊行しても大丈夫ですが、このおとぎ話はまちがいなく、私見ながら実に忠実にロシアソヴィエトとその独裁者二人の歩みをたどるものとなっているので、ロシアのことを描いているとしか思えず、他の独裁国家はまったく対象になっていないといえるほどです。

もう一点あります。このおとぎ話での主要な階級がブタでなければ、これほど不適切とはならなかったでしょう。支配階級としてブタを選んだことは、まちがいなく多くの人々の不興を買うでしょう。特にいささか神経質な人々はそうですし、ロシア人はまちがいなく神経質です。(157ページ)

 
当時のロシアがモデルだとはまったく気づかずに「動物農場」を読んだ私。

「独裁者全般や独裁制一般」を描いてるんだな、と思ったくらい、テンプレの独裁描写だったので、ロシアを風刺していたと知って驚きました。

訳者解説で、当時のソ連についてわかりやすく解説されているのですが、それを読むと、なるほど本作とそっくりです。

農場にはたくさんの種類の動物がいるのに、どうしてリーダーがブタなんだろう、と思っていたのですが、これも風刺だったのか、と納得しました。

悪いのは独裁者や支配階層たちだけではない。

オーウェルは、そのラジオドラマ化に際してのインタビューでこう発言している。

「このお話の教訓は、革命が大きな改善を実現するのは、大衆が目を開いて、指導者たちが仕事を終えたらそいつらをきちんと始末する方法を理解している場合だけだ、というものです」。
 
(中略)つまりここで批判されているのは、独裁者や支配階層たちだけではない。不当な仕打ちをうけてもそれに甘んじる動物たちのほうでもある。

その後も、何かおかしいと思って声をあげようとするけれど、ヒツジたちの大声に負けて何も言えない動物たちの姿は何度も描かれる。

最初からすべてを見通してシニカルにふるまうロバのベンジャミンは、やろうと思えば他の動物たちに真実を伝え、事態を変えられたのに、冷笑的な態度に終始したために結局友だちさえも救えない。

そうした動物たちの弱腰、抗議もせず発言しようとしない無力ぶりこそが、権力の横暴を招き、スターリンをはじめ独裁者をーー帝国主義の下だろうと社会主義の下だろうとーー容認してしまうことなのだ。(203ページ)

 
訳者解説より。本書のほかの動物たちは「かわいそうな集団」とは言い切れないという話。

耳が痛いです。

【感想】世界の権力構造の縮図。

「一九八四年」と同じく、 2020年の今読んでもかなりリアルな内容でした。

むしろ、独裁制の国どころか、世界の縮図だとすら感じながら読みました。

1944年の作品とは思えないほど普遍的。利権問題は昔から変わらないんだな、と呆れます。

独裁者になったリーダーに対して、ほかの動物たちは抗議したかったけど、そのやり方がわからなかった、という描写に共感しました。

なにかが間違ってることも、誰が間違ってるのかもわかってるのに、それをうまく説明できなくて、声をあげられないまま現状に甘んじてしまうことってありますよね。

勉強ができればいいわけでも、口がうまいだけでもダメな気がするので難しい…。

そして、追放されたもう一頭のリーダー、スノーボールの消息が気になります。 

 

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