2023年発行の「静かな働き方」(シモーヌ・ストルゾフ著、大熊希美 訳、日本経済新聞出版 刊)を読みました。
多くの人が陥りがちな、「仕事=自分の価値」という思い込み。
本書では、そんな「仕事中心に生きる生活」から自分を解放するヒントがまとめられています。
仕事を軸に生活するのではなく、生活を軸に仕事ができるはずだ。
そしてその変化は、「あなたの価値は仕事で決まるわけではない」というシンプルな認識から始まる。(25ページ)
著者は元「仕事主義者」のジャーナリスト。「ニューヨーク・タイムズ」「ワシントン・ポスト」「ウォール・ストリート・ジャーナル」等で記事を執筆してきた方です。
各章では、
・ミシュラン星付きレストランシェフ
・ウォール街の銀行家
・Googleの駐車場に停めたトラックで寝起きするソフトエンジニア
など、異なる業界の元仕事主義者たちが登場します。
仕事中心に生きてきた人たちが、どうやってその思い込みから自分を解放し、仕事との距離感を見直したのか、実体験が語られており、
それぞれの経験談を通じて、現代の労働文化に根付いてる思い込みについて検証されています。
「無理せずほどよく働きたい」
「自分の天職がわからない」
「休日も仕事のことが気になってしまう」
「仕事以外にやりたいことも趣味もない」
そんな人にとって、仕事との関係を見直すヒントを提供してくれる一冊です。
グッときた部分のメモと感想をまとめました。
- 仕事はどうやったって仕事だ。
- 自分の価値を仕事以外に見出す。
- 「ビジネス」のラテン語「negotium」は「楽しくない活動」の意。
- 「やりがいのある仕事」が主流の考えになったのは50年前。
- 「神聖な務め」という名のやりがい搾取
- 人は生産するためだけに存在しているわけではない。
- テクノロジーを一切使わず自然の中で4日間過ごすと。
- 今持っている金額の2〜3倍あれば幸せになれる?
- 仕事は人生そのものではない。
- 仕事を自己実現の唯一の手段と考えるのは非現実的。
- 仕事と健全な関係を築けている人の共通点。
- 仕事について聞くのでなく「何をするのが好きですか」と問う。
- 「働かなきゃ」という思い込み。
- 仕事を人生の主役にしない生き方を想像する。
- 感想:「天職に就きたい」と思うことすらも罠。
- 働くことに疲れたら読む本
仕事はどうやったって仕事だ。
「仕事はどうやったって仕事だ。一部の人は好きなことを仕事にしている。仕事以外の時間に好きなことができるよう働いている人もいる。どちらがより貴いということはないよ」(22ページ)
著者が大好きな詩人アニス・モイガニが語った言葉。
22歳の時、彼にインタビューする機会を得た著者。これから社会に旅立つ著者に対し、「やりたいことを探せ」と背中押してくれることを期待していた。
そこで、「愛することを仕事にすれば、1日たりとも働かずに済む」という言葉についてどう思うか尋ねたところ、帰ってきたのがこの言葉。
特に最後の一言に強く揺さぶられたとのこと。
自分の価値を仕事以外に見出す。
さまざまなアイデンティティを育むと誰しも人生の困難を乗り越えやすくなると、心理学の研究は示している。逆を言えば、ひとつしかアイデンティティがないと変化に対応するのが難しいということだ。(37ページ)
やりがいを持って一から育てた事業から去ることになった30歳女性ディビア。
すでに気力は燃え尽きていて、しばらく何もできなかったが、6週間、1人でタイ旅行へ行ってみた。誰も自分のことを知らぬ環境。
帰国後、事業に没頭していた7年間には忙しくてできなかったことをやり始めた。
週末は森でキャンプ、平日は海岸でサーフィン。スケボーの乗り方を学んだり、楽しむためだけの料理をしたり。彼女のアイデンティティは仕事だけでは無くなっていた。
「仕事には、自分のアイデンティティや人生を犠牲にしてまで没頭する価値がないってことを今はちゃんとわかってる」とディビヤは語る。
仕事にすべてを捧げると、ほかにやりがいを感じる活動に時間を充てられなくなる。仕事が常にあるとも限らない。仕事がすべてなのに、その仕事がなくなったら何が残るのか?(60、61ページ)
「ビジネス」のラテン語「negotium」は「楽しくない活動」の意。
16世紀まで、労働が苦役以上のものであるという考えは西洋にはほぼ存在しなかった。
古代ギリシャ人は労働を、より崇高で価値のある活動から人々の身体と精神を遠ざける呪いと考えていた。
「ビジネス」のラテン語である「negotium」は、文字通り「楽しくない活動」を意味する。(52ページ)
「やりがいのある仕事」が主流の考えになったのは50年前。
・「やりがいのある仕事」が主流の考えになったのは50年前。書籍「パラシュート」が出版された頃から。
・それまでは仕事と幸福は別だった
・幸せは天国に行ってからか、勤務時間外に享受するものだった(75ページ)
「神聖な務め」という名のやりがい搾取
・「好きな仕事」を提供する職場では、劣悪な環境が見直されず放置されがち。
・医療従事者、教師、無給のインターンシップなど、その仕事に従事してること自体が報酬の一環扱いされることが多い。賃金が少なく長時間労働。(78ページ)
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・出版やファッションのような文化面で魅力的な業界では特に顕著で「あなたがいなくなっても、代わりに仕事を喜んで引き受ける人が大勢いる」という文句が頻繁に使われる(82ページ)
人は生産するためだけに存在しているわけではない。
人々は常に働いているので、働いていないときに何をしたらいいのかわからない。何をしたらいいかわからないから、さらに働いてしまうのだ。
人々は週末を普段の生活の一部ではなく、切り離されたものとして捉えている。
「充電期間」といった休暇を表す言葉ひとつとっても、仕事に戻ることが前提にあることがわかるだろう。(105ページ)
このループから抜け出す2つの方法として以下が挙げられています。
1:働かない時間を意識的に設ける
2:仕事以外の新しいアイデンティティを作る
テクノロジーを一切使わず自然の中で4日間過ごすと。
テクノロジーを一切使わず4日間自然の中をハイキングすると、創造的な問題解決能力が最大50%も増えることを示す研究結果もある。(158ページ)
・余暇や自由時間が、創造的な仕事に良い影響を与えることを証明する研究結果は多い
・ぼんやりしたり空想している時、脳内では革新的発想を促進するアルファ波が出ていることが知られている
今持っている金額の2〜3倍あれば幸せになれる?
・1から10で表すと、あなたの幸福度はどのくらいですか?
・10点満点の幸福度を得るにはあとどれくらいのお金が必要ですか?
持っている資産が100万ドルでも、200万ドルでも、500万ドルでも、回答者の答えは同じだった。今持っている金額の2〜3倍あれば幸せになれる、と。(199ページ)
ハーバードビジネススクール教授マイケル・ノートンが、2000人以上の富豪を対象とした研究。対象者にした2つの質問と、その結果が上記。結局みんな満足しきっていない。
仕事は人生そのものではない。
作家でノーベル賞受賞者のトニ・モリスン。
彼の初めての仕事は、故郷オハイオ州ロレインでの清掃の仕事だった。
金持ちの家を掃除することに対する不満を父にこぼしたとき、父はコーヒーを置いて言った。
「よく聞きなさい。君はそこに住んでいるわけじゃない。ここでわたしたちと暮らしているんだ。仕事を済ませて、家に帰ってきなさい」(224ページ)
・仕事は重要だが、あくまで生計を立てる手段であり、人生そのものではない。(225ページ)
仕事を自己実現の唯一の手段と考えるのは非現実的。
仕事を取引として考えるのは夢がないと思うかもしれない。仕事は金のためにするものではなく、天職や使命、やりがいのためにするものだと多くの人は教えられてきた。
しかし、企業は雇用を契約としか見ていない。企業は会社に価値をもたらす従業員を雇い、価値のない従業員を解雇する。これを見誤ると足元を見られてしまう。(225ページ)
仕事を自己実現の唯一の手段と考えるのは非現実的。仕事への期待値を見直そう、と著者。
仕事と健全な関係を築けている人の共通点。
・仕事と健全な関係を築けている人の共通点
・彼らは仕事をしてない自分が何者であるかを、しっかり認識している。(227ページ)
・仕事の成果から自己評価を切り離すには、まず、上司や肩書きや市場の影響を受けない自分を作らねばならない。(227、228ページ)
仕事について聞くのでなく「何をするのが好きですか」と問う。
・問うのは「普段何をしているか(どんな仕事をしてるか)」でなく「何をするのが好きですか」(228ページ)
「働かなきゃ」という思い込み。
「働かなきゃ」というプレッシャーは根深い。政府や会社からの圧力だけでなく、僕たち自身の思い込みによって強化されているからだ。(232ページ)
・完璧な経歴を持っている人でさえ、仕事と人生のバランスについて思い悩んでいる(233ページ)
仕事を人生の主役にしない生き方を想像する。
個人としても社会としても足りないのは、仕事を人生の主役にしない生き方がどのようなものかを想像する力だ。(233ページ)
著者が読者に問いたいことは、
仕事をしていない自分を愛するためにできることは何だろう?(233ページ)
・散歩でも、上達すること考えずに始める新しい趣味もいい
・経済的価値を生み出すためだけに存在してるわけでないことを思い出すために何ができるだろうか(233ページ)
感想:「天職に就きたい」と思うことすらも罠。
「仕事中心にならない生き方」は、2015年に休職して盛大に断捨離を始めた頃から、ずっと追求し続けていて、働く日数を減らしたり、いろんな収入の道を考えたりと、試行錯誤しています。
そんな中、電撃的に盲点だったのが、本書に書かれている「天職に就きたい、と模索してしまうこと」も罠だという話。
・ワークライフバランスを整える(という考えもドツボにハマってるなあ。。)ために、仕事以外のアイデンティティを持つこと。
・「仕事を失う」=「すべてを失った」わけではなく、自分のすべてを否定されたわけでもないということ。
こうして見ると当たり前の考えな気がしてきますが、仕事のことばかり考えてるとすぐ見失うんですよね。。
もう一つ、
・好きな仕事をやりがいもって邁進してる人を見た時、キャリアや肩書きを大事にしてる人がいた時、他人軸に振り回されず、自分軸でいること。
というのも、つい忘れがちですが本書で再確認。
「仕事が楽しくない」
「もっと天職があるのでは」
と焦らなくていい。
目の前の仕事をまずは生活の糧として取り組んで、他の時間に仕事と関係ない自分の時間を過ごす。
好きな仕事をしている場合、ある時期ふと情熱無くなった場合に、
「向いてないのかも」
「他に新しい情熱を探すべきか」
と不安になっても、慌てたり凹んだりする必要がそもそもない。
もっと仕事に対しては気楽でいい。もっと休みを取っていい。休んでいる間に罪悪感を感じる必要もない。
「仕事のために休日はしっかり休む」「仕事のために自分にご褒美をあげる」といった意識も、自分の中に確かに根強く有るので、これも目からウロコでした。仕事のためじゃなく、「休み」は「休み」。
そして、テクノロジー断ち(スマホ、タブレット、パソコンなど)+自然の中で過ごすのは人生の肝なのだと改めて。
冒頭の、釣りを楽しむ男の逸話が個人的に1番印象的でした。今この瞬間を味わうことの重要さと、真の幸せは結構ささやかですぐ手に入るものだと再確認できます。