2022年発行(原書はスウェーデンにて2016年発行)「運動脳」(アンデシュ・ハンセン著/御舩由美子 訳/サンマーク出版刊)を読みました。
(※本書は2018年に発行された「一流の頭脳」の加筆・再編集版です)
運動は、副作用が一切ない薬だ。(169ページ)
運動をすると気分爽快になるだけでなく、
・集中力、記憶力、創造性がアップ
・ストレスに対する抵抗力も高まる
・情報を素早く処理できるようにもなる
・IQ知能指数が高くなるという説もある
など、脳が鍛えられていくことが分かっているとのこと。
そもそも、「脳」は頭を働かせようとするよりも、身体を動かすことでこそ威力を発揮する器官なのだとか。
本書では、
・運動が脳に及ぼす絶大な効果とその根拠
・具体的な運動内容
について、研究結果や患者の実例をまじえながらまとめられています。
著者はスウェーデン出身の精神科医。世界的ベストセラー「スマホ脳」「最強脳」の著者でもあります。
参考になった部分のメモと感想をまとめました。
- あなたの脳の大きさ。
- 記憶の中枢「海馬」はストレスで縮んでいく。
- 運動以上に記憶力を高められるものはない。
- 運動がストレスに効く理由。
- ストレスは脂肪燃焼を妨げる。
- 週2〜3回、少なくとも20分の有酸素運動を。
- 座りっぱなしは不安やうつになりやすくなる。
- 抗うつ剤を超える効果=ランニング。
- うつ病は脳細胞が作られないせいで起こる。
- 運動をすると性格も変わる。
- 幸福かつ健康な長寿者が多い地域の特徴。
- 感想|走るのが嫌いな人も思わず走りたくなる一冊。
- アンデシュ・ハンセン著作の読書メモ一覧。
- 関連記事はこちら。
あなたの脳の大きさ。
・両手で拳を作り向かい合わせにする。それがあなたの脳の大きさ。
・重さは牛乳紙パック1本分ほど。
・エネルギー消費量はわずか電球1個分ほど(9ページ)
脳の重さは全体重の2%で、体に必要なエネルギーの20%を使っているのだそうです。
記憶の中枢「海馬」はストレスで縮んでいく。
・ストレスにより分泌されるコルチゾール。
・海馬の細胞は過度のコルチゾールにさらされると死んでしまう。
・慢性的にコルチゾールが分泌され、それが何ヶ月も何年も続くと海馬は萎縮してしまう
・海馬は記憶の中枢。ストレスがいつまでも治まらないと、短期の記憶が損なわれる。(70ページ)
たとえば「言葉がうまく出てこない」「場所の認識ができない」といったことが起こるのだとか。
重いストレスや不安を抱えている人の海馬は、平均よりわずかに小さいそうです。
運動以上に記憶力を高められるものはない。
・海馬は1年で1%縮む。
・海馬は心拍数上がる持久系トレーニング(週3回、40分、早足で歩いた)で縮まないどころか2%成長した(若返った)
・トレーニングを定期的に3ヶ月続けた場合、単語暗記能力がかなり上がった。続けるほど効果増大(212ページ)
3ヶ月経たないうちに、健康面も記憶力も良くなっていくとのこと。
運動がストレスに効く理由。
・ランニングやサイクリングなどの運動は、肉体に負荷がかかる一種のストレスなので、コルチゾール分泌量が増える。
・運動が終わればコルチゾール分泌量は減り、さらに運動を始める前のレベルにまで下がっていく。
・ランニングの習慣をつけると、走っている間のコルチゾール分泌量は次第に増えにくくなり、走り終えた時に下がる量は逆に増えていく。
・定期的に運動を続けていると、運動以外が原因のストレスを抱えている時でも、コルチゾールの分泌量はわずかしか上がらなくなっていく。(72、73ページ)
こうして、ストレスに対する抵抗力が高まるとのこと。
さらには、運動を習慣づけることで、海馬で新しい細胞が生まれるそうです。
また、ストレスで萎縮したり、運動で強化されるのは前頭葉も同じなのだとか。
ストレスは脂肪燃焼を妨げる。
・ストレスにより分泌されるコルチゾールには「身体の脂肪燃焼を妨げる作用」がある
・コルチゾールの血中濃度が増えると、腹部に脂肪が蓄積する。その上食欲が増し、高カロリーのものが食べたくなる。
・だが運動によりうまくストレス対処できるようになると、コルチゾールの血中濃度が下がり、食欲がおさまり、脂肪も減り、カロリーの燃焼度が増えていく。(102、103ページ)
週2〜3回、少なくとも20分の有酸素運動を。
体型や普段の運動量などには個人差があるため、ストレスや不安対策の具体的な運動量や時間を示す絶対的なプログラムはまだ存在しない、と著者は言います。
とはいえ、ひとつの目安として、以下の運動内容が挙げられています。
・目安はランニングやスイミングなどの有酸素運動を少なくとも20分続ける。余裕なら30〜45分。
・週に少なくとも2、3回は心拍数大幅に増える運動を習慣にする。
・心拍数を増やせない事情や、増やしたくない人は散歩でもいい。ストレスを抑える効果は望める。(108ページ)ー
・運動は朝に。運動後もしばらく効果が続き、数時間経つと徐々に効果薄れていく。(160ページ)
夜に運動して後は寝るだけ、というよりも、朝に運動してから勉強や仕事をすることで、運動の効果をより活かせるようです。
座りっぱなしは不安やうつになりやすくなる。
・アメリカでの研究。若者3200人に対し25年にわたる調査。
・結果、座りがちの被験者は集中力と記憶力が損なわれ、思考も遅くなっているとわかった。
・その差は歴然だった。
・とりわけ1日3時間以上じっと座ってた人は惨憺たる結果。
・座りっぱなしは不安やうつにもなりやすくなる(161ページ)
オーストラリアの調査では、1時間座りっぱなしでいると寿命が22分縮むという研究結果も。↓
»【参考】1時間座り続けると余命が22分縮まる! “座りすぎ”のリスク|テレ東プラス
デスクワークかつ読書が趣味の身としては、運動習慣だけでなくスタンディングデスクも検討すべきか…と考えさせられます。
抗うつ剤を超える効果=ランニング。
・4ヶ月間の実験。「抗うつ剤を服用して回復した人数」と「週3回30分ずつ運動して回復した人数」が変わらなかった。
・その半年後、「運動グループ」でうつがぶり返したのは10人のうち1人にも満たない8%。
・一方、「抗うつ剤服用グループ」での再発は3人に1人を超えて38%。
・運動=抗うつ剤どころか薬より強力。(175ページ)
最も抗うつ効果が高い運動はランニングだそうですが、ウォーキング(毎日20〜30分)にも抗うつ効果があるとのこと。
ウォーキングから始めて徐々に運動強度を上げていった場合の例が挙げられています。↓
・著者の診察を受けに来たうつの女性。まずは定期的なウォーキングから。数日は10分ほどだったが徐々に時間長く、ペースも上げていった。
・3週間後、まだ疲労感は抜けていなかったが、1回につき15分のスロージョギングができるまでに体力が回復。
・続けるうちに少しずつ運動強度を上げ、4ヶ月が過ぎる頃には週3回走れるようになり、ときには1時間近く走ることも。
・全般的に健康になり、夜もぐっすり。短期記憶や集中力も改善。
・職場でも家庭でも些細なことで不安を覚えなくなり、ストレス減。復活。(167ページ)
普段、走る習慣がまったくない身としては、ウォーキングから少しずつ慣らしていくこの例はとても参考になります。
ちなみに、「ランニング=抗うつ剤と同じ効果」という事実が世間に広く知られていない理由は、「製薬会社等が稼げなくなるから」というお金の問題なのだとか。
うつ病は脳細胞が作られないせいで起こる。
すべての人の脳は、25歳ごろから1年あたり約0.5%ずつ小さくなっていくそうで、うつ病になるとこれが加速するとのこと。
これは、脳に新しい細胞が生まれないことと関係しているようだと著者は語ります。
・脳の細胞は成人後も増えるが、鬱になると細胞の新生が阻害されてしまう。
・科学者たちの最新の説では、うつ病は脳細胞が充分につくられないために引き起こされるという。
・うつ病のせいで脳細胞が作られないのでなく、脳細胞が作られないために意欲低下が引き起こされるというのだ。この仮説はかなり真実に近いと思われる。(187、188ページ)
「うつ病になったから意欲低下」ではなく、脳細胞が作られないことで「意欲低下したからうつ病になる」という流れ
運動をすると性格も変わる。
・運動を定期的に行なった人は幸福感が増す上、わずかだが性格も変わる。
・フィンランド、日本、南アフリカで実施された実験によって、定期的に運動する人には皮肉っぽい気質や神経質な性格の人が少ないことがわかった(190ページ)
昔に比べてネガティブな思考や悲観的な思考が増えている場合、運動不足も一因なのかもしれません。
幸福かつ健康な長寿者が多い地域の特徴。
「幸福かつ健康な長寿者が多い地域」のことを「ブルーゾーン」と呼びます。
本書で挙げられているブルーゾーンはイタリアのサルデーニャ、日本の沖縄、コスタリカ、スウェーデンのスモーランド地方です。その共通点は以下とのこと。
・大都市でなく小さなコミュニティか離島。
・住民たちは強い絆で結ばれ、何世代かが同居してることも珍しくない。一人で暮らす人はほとんどない。
・飽食はせず、栄養不足にならない程度に低カロリーの質素な食事をしている。
・日常的な活動で非常によく体を動かしている(327ページ)
運動だけでなく、低カロリーの食事もまた、脳細胞の新生を促すそうです。
最新の長寿研究について書かれた本「LIFESPAN(ライフスパン)老いなき世界」や、余命宣告をきっかけに超少食に切り替えた結果、健康になり108歳まで生きた男性の手記「無病法」にも、腹八分や少食が老廃物の排出を促進し、長寿遺伝子を刺激するといった記述があります。
定期的な運動と合わせて、腹八分を心がけるのも肝な気がします。
感想|走るのが嫌いな人も思わず走りたくなる一冊。
長時間の座りっぱなしが健康に悪いのは知っていて、スタンディングで仕事してみたり、ちょこちょこ休憩をとったり、バランスクッションを椅子代わりにしてみたり、色々試してきました。
運動も大事だと分かってはいても、ジムも自宅での運動も3日坊主ばかりで、近年はやっと散歩が習慣になった程度。子供の頃から足が遅く、マラソン大会では毎回最下位争いしていたレベルで、走るのは大の苦手。
ですが、うつや創造性の低下、果ては脳の萎縮になるといわれると、さすがにやるっきゃないと思わされました。
「最強脳」を読んで「もっと散歩しよう」と思い、立て続けに読んだ「運動脳」と「ストレス脳」で畳み掛けられ、ついに走り始めた次第です。
・1回につき30分以上。
・週3。
・効果実感まで数週間。
とのことですが、普段まったく走らないところからのスタートなので、ランニングというよりも歩き混じりのジョギングです。
本書の中に、「走れない状態からスタートして、どんどん持久力がついていった女性の例」が出ていたのも、やる気や自信が湧いた理由のひとつ。
インドア大好きで、何かに遅刻しそうな時くらいしか走らない私が、「走るために走る」なんて、我ながら(周囲も)衝撃を受けています。
外出時はバッグを持ち歩かず手ぶらのことが多いので、買い物や郵便局に行くついでに、普段着+スニーカーで走れるだけ走っています。
近年、手ぶらで外出する習慣がついていたのは、このときための伏線だったのか、と思うほど。
先に「最強脳」を読んでいたので、この「運動脳」はその“詳細版“という感じなんだろうな、とうっかりあなどって読み始めたのですが、「最強脳」は入門編(学生向け)、「運動脳」は中級〜上級編(大人向け)という印象でした。