2021年発行(原初は2020年発行)のベストセラー「サイコロジー・オブ・マネー」(モーガン・ハウセル 著/児島修 訳/ダイヤモンド社 刊)を読みました。
目先の情報や感情に振り回されずに賢くお金と付き合うための、お金の心理学がまとめられています。
著者は、ベンチャー・キャピタル「コラボレーティブ・ファンド」でパートナーを務める、現役の金融プロフェッショナル。
そんな著者のお金に関する最大目標は常に「経済的自立」。とはいえ巨額のリターンを追い求めることも、資産運用で贅沢生活することにも興味がないのだとか。
私が望んでいるのは、毎朝、「今日も、家族と私は、自分の好きなことを好きなようにできる」と実感しながら目覚めることだ。(309ページ)
お金への不安や過剰な欲望を減らしてくれる本書。
本編も面白いのですが、ところどころ垣間見れる、著者の「シンプルな暮らし」がさらに興味深い一冊です。
グッときた部分のメモと感想をまとめました。
- 高給やステータスよりも幸福度が上がること
- 「好きなこと」が「嫌いなこと」になるとき
- 現代人が豊かさと引き換えに失ったもの
- 「成功を手に入れるまで成功しているフリをする人」を利用する資本主義
- ウェルス(富)とリッチ(物質的豊かさ)は別物。
- 他人の目を過度に気にしない
- 誰かに所有されている自分の未来を取り戻す行為=貯金
- 投資の建前と本音
- 著者の「お金に振り回されない生き方」
- 感想|お金、欲望、幸福についてのシンプルな考え方。
高給やステータスよりも幸福度が上がること
心理学者アンガス・キャンベルの著書「アメリカ人の幸福の感覚」の中に書かれている、幸福度の高い人々に見られた一番の共通点は単純なものだった、と著者。
それは「人生を自分でコントロールしている」というはっきりとした感覚があること。
つまり、どんなに高い給料よりも、どんなに大きな家よりも、どんなにステータスのある仕事よりも、「好きなときに、好きな人と、好きなことができる」生活を送れることのほうが、人を幸せにするのである。(127ページ)
「好きなこと」が「嫌いなこと」になるとき
大学時代、投資銀行で働きたかった著者は、大学3年の時、投資銀行で夏季のインターンシップをする機会を得ます。
「宝くじに当たったも同然と思った。望んでいたことの全てだった」。
しかし、実際に働いてみると、深夜0時前に帰宅できるのは贅沢だと考えられているほどの激務。
給料は良いが、起きてる間は上司の奴隷。それまでの人生でこれほど惨めな経験はなかった、と著者。
インターンシップは4ヶ月の予定だったが、1ヶ月しか持たなかったとのこと。
何よりも辛かったのは、この会社での仕事そのものは好きだったことだ。それに、熱心に働きたいとも思っていた。
しかし、自分でコントロールできないスケジュールに従ってまで好きなことをするのは、嫌いなことをしているのと同じだった。(129ページ)
現代人が豊かさと引き換えに失ったもの
世界史上最も豊かな国といわれるアメリカ。しかし、幸福度は低いとのこと。
豊かになった米国人は、大きくて質の良いモノを買えるようになった。だが同時に、自分の時間をコントロールできなくなった。豊かさと引き換えに、時間を手放したのだ。(132ページ)
「成功を手に入れるまで成功しているフリをする人」を利用する資本主義
人は目に見えるものから誰かの豊かさを判断しようとする。車、家、インスタ写真など。
なぜなら、他人の銀行口座の中身や証券会社の取引明細書を見ることはできないから。
その心理をうまく利用しているのが現代の資本主義だ、と著者。
現代の資本主義は、人が「成功を手に入れるまで、成功しているフリをする」ことそれ自体を、一つの立派な産業にしている。(145ページ)
ウェルス(富)とリッチ(物質的豊かさ)は別物。
「リッチ」とは、現在の収入が多く、それを使って贅沢な買い物をしていること。
「ウェルス」とは、使われていない収入のことで、目に見えないもの。
リッチのロールモデルは見つけやすいが、ウェルスのそれは見つけづらい。(145ページ)
他人の目を過度に気にしない
富を築く人には、他人の目を過度に気にしないという傾向がある。(158ページ)
投資の年間リターンを0.1%あげようとするよりも、生活費を2〜3%減らすほうが簡単だ、と著者。
そのためには、人目や見栄をあまり気にしないことがポイントだとか。
誰かに所有されている自分の未来を取り戻す行為=貯金
「目的のない貯金」をすることで、
・待つべき時に待てる
・チャンスが来たら飛び付ける
・考える時間も作れる
・自分の意思で人生を軌道修正できるようになる
など、選択肢と柔軟性が手に入る、と著者は言います。
私たちは少額の貯金をするたびに、誰かに所有されていた自分の未来を少しずつ奪い返しているのだ。(160ページ)
投資の建前と本音
モーニングスター社によれば、米国の投資信託会社に勤めるポートフォリオ・マネージャーの半数は、自社のファンドに自己資金を1セントも投資していない。(306ページ)
以前読んだ本「いらない保険 生命保険会社が知られたくない「本当の話」」の中でも、「保険をよく知る人ほど保険には入らない」と書かれてあり、共通点を感じます。
著者の「お金に振り回されない生き方」
私たちの貯蓄率はかなり高いが、物欲は昔から変わらないので、我慢して倹約しているという感覚はない。
モノへの欲求がまったくないわけではない。私たちは質の良い品が好きだし、快適に暮らすことを大切にしている。
ただ、ライフスタイルのゴールポストが動かないようにしただけだ。(310、311ページ)
収入の増加につれて欲望も増加しないよう、若いうちに満足ポイントを固定したという著者。
そんな著者夫妻の楽しみは、散歩や読書、ポッドキャストを聞くことだそう。
お金がかからない趣味ですが、我慢している意識はなく、お互いがどちらかの好みに妥協したわけでもなく、自然と同意できた内容とのこと。
純資産は、住宅と、当座預金と、バンガード社のインデックスファンドだけ。
妻と私は、これ以上複雑なものを必要としていない。私たちは物事をシンプルにしておくことが好きだからだ。(316ページ)
家を買うときも、当時の住宅ローンの金利はとても低かった中、ローンを組まずに買ったのだとか。毎月の返済を気にするより、安心して毎日過ごせることを優先したのだそうです。
感想|お金、欲望、幸福についてのシンプルな考え方。
欲望を我慢するわけでもなく、お金に振り回されない、無理しない暮らし。
金融のプロフェッショナルでありながら、ガツガツせずにのんびりしている雰囲気が本書を通してただよっています。
著者と同じく散歩や読書が好きな身として、親近感を覚えながら読みました。
若い頃から物欲コントロールが自然とできていたという著者。人生何周目の魂なのでしょうか。。
「将来への備え」や「もっと稼ぐには」といった、不安や努力や損得の話でなく、お金や欲望に対して肩の力を抜かせてくれるお金の本というのが珍しく、印象に残っている一冊です。