2020年発行のベストセラー「ライフスパン 老いなき世界」(デビッド・A・シンクレア著/マシュー・D・ラプラント共著/梶山あゆみ訳/東洋経済新報社刊)を読みました。
現在50代の著者は、ハーバード大学医学大学院で遺伝学の教授を務め、老化の原因と若返りの方法を研究している、長寿研究の第一人者です。
老化は避けて通れないと定めた生物学の法則など存在しないのだ。(36ページ)
老化の症状に影響する遺伝子ならすでに見つかっている。
(中略)しかし、(中略)老化の原因となる単一の遺伝子は発見されていない(79ページ)
著者によると、「老化」は人間が絶対に避けられない遺伝子的な運命ではなく、 インフルエンザのように誰もがかかる「一般的な病気のひとつ」と考えていいとのこと。
本書では、
第一部:「老化」は治療できるありふれた病気である
第二部:老化を遅らせ食い止めあるいは逆転させるための、すぐできる対処法と開発中の医学療法
第三部:老化が治療できるようになった後の未来を考察。寿命がただのびるだけでなく、健康に楽しむための提案
という3部構成で、老化がなくなる未来(健康寿命が120歳を超える未来)について語られています。
著者や家族が日常的に飲んでいる若返りサプリの話も具体的に語られていて、好奇心が刺激される一冊です。
老化治療の研究には、iPS細胞で知られる山中伸弥教授の発見が活かされており、本の内容の面白さや読みやすさだけでなく、日本人として胸熱く読めます。
グッときた部分の読書メモと感想をまとめました。
- 「ライフスパン 老いなき世界」読書メモ。
- 感想:「SFが現実になるリアルさ」を感じられる一冊です。
- 関連記事はこちら。
「ライフスパン 老いなき世界」読書メモ。
2020年5月時点での世界最高齢は日本人117歳。
2020年5月時点での世界最高齢は日本人女性の田中カ子(かね)さんで117歳(353ページ訳注)
「やっぱり日本人なんだ」って思ってしまうくらい、日本人の長寿率って高い気がします。すごい。
人口の50%未満に起きるものが「病気」。
『高齢者医療メルクマニュアル』(メディカルブックサービス)によると、病気とは、人口の半数未満がこうむる不調のことをいう。しかし、当然ながら老化は誰にでも訪れる。
(中略)人口の49.9%に起きるものが病気で、50.1%が経験するものは病気じゃないなんて、そんなおかしな理屈があるだろうか。(159、160ページ)
「病気」の定義って初めて知りました。
あなたの長寿遺伝子を今すぐ働かせる方法。
・食事の量や回数を減らす。
あくまで栄養失調や飢餓状態にならない程度に、とのこと。
実例として、15〜16世紀に生きたヴェネツィアの貴族で「自己啓発本の父」ともいうべき人物、ルイジ・コルナロが取り上げられています。
若くして財を成したコルナロは、金を飲食と女にお金をつぎ込んだ結果、30代半ばで疲れ果て、医者の忠告をきっかけに自制を決意。
食物は毎日12オンス(約340グラム)までにし、ワインは1日グラス2杯しか口にしなかったのだ。
「食べることにおいても飲むことにおいても、自分の欲求を完全には満たさないことを習慣づけた」と、コルナロは著書『無病法』(PHP研究所)の「講話1」に記している。(172ページ)
「無病法」が出版されたのはコルナロが80代のとき。並外れて健康だったコルナロが1566年に他界した時は100歳近かったとのこと。
さらには、著者が会った、カロリー制限食を自ら続けている2人の人物についても語られています。
彼らは医師が一般に推奨するカロリーの75%程度しか摂取していなかったとのこと。
四六時中空腹感があるのは最初のうちだけで、慣れるし気分爽快。2人とも体脂肪率が低すぎるので余計に体を温めるため、Tシャツ1枚で平気な季節でもタートルネック。
彼は60代後半だったが心身の活動が鈍ってる様子はなく、成功している会社のCEOを務め、ニューヨーク州のチェスチャンピオンだったことも。見た目は年相応。脂肪が少ないせいでシワが目立つことが大きく響いているように感じたとのこと。
・運動をする
よく運動をする(1日最低30分のジョギングを週に5日行なうのに相当)人は、座りがちな生活をする人よりもテロメアが長く、その長さは、10歳近く若い人と同等だった。(190ページ)
インドア大好き人間の私には耳が痛い話です。
最近の研究によれば、週に4〜5マイル(約6.5〜8キロ)走るだけでも(毎日15分足らずのランニングで達成できる距離)、心臓発作で命を落とすリスクが45%減り、全死因死亡率が30%下がることが示されている。(191ページ)
1日に5〜10分程度軽くランニングするだけの人でも、走る習慣のない人より数年長く生きたのだ。(192ページ)
「好きなだけ食べても、走れば余分なカロリーを落とせますか?」よくそう訊かれる。私の答えは「たぶん無理」だ。
(中略)カロリー制限食にしても同じだ。カロリーが高くなくても満腹感のあるものにすると、健康効果をすべて得ることができない。
カロリー制限が功を奏するには、空腹になることが肝心だ。空腹になると、長寿ホルモンを分泌する脳内の遺伝子が作動しやすくなるからである。
断食と運動を組み合わせたら、寿命は長くなるのだろうか?間違いなくその通りだ。(193ページ)
・「寒さ」を味わう。
少しばかり寒さを味わうことで、褐色脂肪のミトコンドリアを活性化させるのもいい。
(中略)冬にTシャツ1枚で、ボストンのような街を早足で歩けばいい。
褐色脂肪組織をつくるペースを上げるには、寒いなかで運動するととりわけ効果が高いようである。
夜通し窓を1枚だけあけておいたり、眠るときに厚い毛布を使わなかったりするのも1つの手かもしれない。(201ページ)
ランニングを習慣づけるのは厳しいですが、冬に散歩するのは私でもできそうです。
低体温症や凍傷になるまでやっては健康を損なう。
だが、鳥肌が立つ、歯がカチカチ鳴る、腕が震えるというのは、危険なサインではない。
(中略)こうした状態をある程度経験すれば、長寿遺伝子は必要なストレスを受け取って健康的な脂肪を増やしてくれる。(202ページ)
死が避けがたいことを示すものはまだ何ひとつ見つかっていない。
ノーベル賞も受賞した著名な物理学者リチャード・ファインマンは、それを端的にこう表現した。
「生体のふるまいを調べても、死が避けがたいことを示すものはまだ何1つ見つかっていない。だとすれば死とは少しも必然ではなく、この厄介事の原因を生物学者が発見するのも時間の問題と思われる」
これは正しい。生命に終わりが訪れなければならないような法則は、生物学的、化学的、あるいは物理学的に調べても見当たらないのである。(214ページ)
これは衝撃。
期待されているアンチエイジング薬やサプリ4種。
・メトホルミン
アインチイエイジング薬の可能性。
・レスベラトロール
空腹にならずともカロリー制限のメリットを得られる。ワインに入っているが、毎日1000杯くらい飲まなきゃダメなので、薬にするにも限界がある。
・NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)
法律で規制された薬物ではなくサプリがある。閉経後の女性の月経が再開したり、老馬の生殖能力が回復した実例あり。
・セノリティクス
期待されている老化細胞除去薬。
以上4種のうち、著者の父はメトホルミンとNMNを服用しているとのこと。
70代半ば以降衰えがきてた著者の父は、糖尿病予備軍で、耳が少し遠くなり、視力も落ちてきていた。疲れやすく、同じ話を何度も繰り返す。不機嫌になることも多くなった。
糖尿病予備軍の治療のためメトホルミン服用を始め、翌年からはNMNもとるように。
その結果、あまり疲れを感じにくくなり、イライラが減り、頭もはっきりしてきた。かかりつけ医は、20年も異常だった肝臓の数値が正常になったことに驚いていた。
今では著者の父に笑顔が戻り、10代の若者のように動き回っていて、新しい仕事も始めたとのこと。
また、NMNは著者の父だけでなく、著者と著者の妻、著者の弟、そして著者が飼っている3匹の犬も摂取しているそうです。
こういう身近な具体例が語られていると、さらにリアルさを感じます。
「羊のドリー」にはじまったクローンと老化の関係。
今やクローニングは、家畜や競走馬、さらにはペットを再生するためにも行われるようになった。
2017年には、クローン犬1匹を4万ドルという「お買い得価格」で注文できるようにもなっている。
少なくとも、アメリカの歌手バーブラ・ストライサンドはそうやって、亡くなった愛犬サミー(巻き毛のコトンドテュレアール犬)のクローン2匹を手に入れた。
サミーが死んで細胞を提供したのは14歳のときであり、人間でいえば75歳くらいの年齢にあたる。それでも、クローニングには何の支障もなかった。
こうした実験はきわめて重要なことを告げている。つまり、老化はリセットできるということだ。(275ページ)
クローンって倫理的な問題で実用はされてないものとばかり思っていました。
若返り薬で視神経も再生可能。
視神経は生まれ変わらない限り再生しないものだったが、マウスに若返り薬を試すと、潰れた視神経が再生し、それは高齢のマウスでも可能で、緑内障でも視力回復した。(285ページ)
次世代の健康管理センサー。
この文章を書いている今、私は平均的な大きさのリングを指には指に嵌めていて、これで心拍数や体温、それから体の動きをモニターしている。
毎朝目覚めると、よく眠れたかどうか、どれくらい夢を見たか、日中はどれくらい冴えた頭でいられるかをこのリングが教えてくれるのだ。
(中略)それが今や数百ドルで手に入り、誰でもネット経由で注文できる。
(中略)次世代のセンサーは無害な皮膚パッチ型になり、やがては皮膚下に埋め込むインプラント型が主流になるだろう。(315ページ)
皮膚下に埋め込むのはちょっと怖いです。
空気中を高速で移動する病原体は1年足らずで3000万人もの命を奪える。
「自然の気まぐれで発生するのであれ、テロリストの手でばらまかれるのであれ、空気中を高速で移動する病原体は1年足らずで3000万人もの命を奪える。それが疫学者たちの見解です」
2017年の「ミュンヘン安全保障会議」の場で、マイクロソフト社のビル・ゲイツは聴衆にそう語りかけた。
「そして、世界が今後10年から15年のうちにそうした大流行を経験する確率は、けっして低くはないと研究者は指摘しています」(325ページ)
不正アクセスされた医療記録1億1100万件。
将来、誰もがチップなどでバイオセンサーの医療情報を持つようになった場合、その重要な個人情報データはどんな組織が安全に管理するのかという問題についても語られています。
アメリカでは2010年から2018年のあいだに、1億1100万件あまりの医療記録が不正にアクセスされた。
イギリスの通信プロバイダー、メインテル社のセキュリティ部門責任者は、こうした攻撃がもっと頻繁に起きるようになると予測する。
「闇サイトでは、クレジットカード番号より医療情報のほうが10倍の高値で取引されている。
盗んだデータを使って偽のIDカードをつくれば、医療機器や医薬品を購入できる」(328ページ)
SFのような科学技術は半年経たずに科学的事実になった。
私はときどきアメリカ連邦議会の議員などから、これからの科学技術について質問を受けることがある。
どのような飛躍的進展があるか、それはどのように活用ないし悪用されるおそれがあるか。
数年前には、未来における生命科学の進歩のうち、国家の安全保障に関係するもの上位5つについて意見を述べた。
内容は教えられないが、あの場にいたほとんどの人はサイエンスフィクションだと思ったに違いない。
おそらくは2030年を待たずに実現するだろうとそのときは説明したが、半年と経たずに5つのうち2つが科学的事実(サイエンスファクト)となった。(415、416ページ)
著者自身のサプリの選びかた。
日に50回くらいはサプリメントについて訊かれる。
答える前に断っておくが、私は特定のサプリメントを推薦することはないし、商品の試験や研究にも携わっていない。もちろん効能を保証することもない。
私の推薦であるかのように謳った商品があれば、間違いなく詐欺だ。
サプリメントは医薬品に比べて規制がはるかに緩い。だから、私が実際にサプリメントを摂取するときには、評判のいい大手のメーカーを探し、できるだけ純度の高い分子(目安は98%超)で、ラベルに「GMP」の文字が記載されているものを選ぶ。
これは、アメリカ食品医薬品局(FDA)の定める「優良製造規則」に則(のっと)った商品という意味だ。
NR(ニコチンアミドリボシド)は体内でNMNに変換されるので、NMNではなく安価なNRを摂取する人もいる。(476ページ)
感想:「SFが現実になるリアルさ」を感じられる一冊です。
理系に弱い私でも面白く読めて、読書メモがはかどりました。
専門的な横文字も多少出てきますが、最小限に抑えられています。内容も文章もわかりやすく、読みやすい一冊でした。
生体チップとかビル・ゲイツの疫学話など、都市伝説や陰謀論が好きな人にとっても興味深い部分がちらほらあります。
基本的には「老化は治療できる」というポジティブな未来について語られていますが、決してそれだけではなく、
「医療情報という重要な個人データを誰が一元管理するのか」という倫理面やセキュリティの問題に加え、
「人類の寿命が延びることで、人口が増えすぎ、地球の環境破壊がもっと悪くならないか」という懸念にも触れられていて、読んでいる一般人の不安を置いてきぼりにしない内容になっています。
老化に悩みながら長生きするのでなく、健康で若々しいまま120歳くらい生きるのが普通になるとすると、私の場合この先85年あることになります。どういうライフプランで生きようか全然思いつきませんが、世界や宇宙の変化をたくさん見られるのは楽しそうです。